窓が音もなく割れる。砕け散ったそこからダイブした土方は雪に埋もれる前に刀の柄で割って這い出した。振り仰いだ倉庫は既に炎に呑まれ崩れかけている。灰だか雪だかわからないものに降られながら無線機に口を寄せる。微かに焼けた喉の声を無線に吹き込むその背後で、吹雪く木々の間から踏みしめる雪の軋みと共に出てきた沖田が「アレ、でっけえ焚き火ができてる」と燃え盛る倉庫に首を反った。振り向いた土方の手から無線機が滑り落ち、雪の中に半分埋まってノイズと化す。火から土方へと移った視界がさらに吹雪くのに沖田は目を細めた。頭や体に積もった雪が蝋のように溶けていっている。
「敵より殺気を放つな」
 紛らわしい、と舌打つ土方が落とした無線機を拾って雪を払いながら「で?」と報告を促す。
「全員斬りましたよ。そこの林ん中でシャーベットみてえに凍りはじめてる」
「そうか。お前は後で始末書だから」
「え?」
「え?じゃねェ、俺ごと爆破した件についてだ」
「生きてんだからいいでしょう」
「間一髪ダイハードみたいな飛び降り方したわ」
 火の爆ぜるのも吹雪く風も妙に遠いが、声や息の響きは生々しく、「始末書より土方さんを始末しようかな…」と吹雪にのって届く沖田の声に「聞こえてんぞ」と土方が煙草の箱を振る。無線機の次は煙草を手から落とした土方の屈んで俯いた髪に混じる埃っぽい雪を「旦那みてえな白髪になってやすぜ」と沖田が言った。「最悪だ」と漏らす土方の髪に沖田の手が伸びる。髪の隙間に煌めく結晶に触れた瞬間、「イテ」と沖田は指を引っ込めた。指の腹の膨らみにじわり血の玉が浮かぶ。
「雪かと思ったらガラスだった」
「どうりで頭が滲みると思った」
「でも一番痛えのは、」そこで息を区切った沖田が土方の手首を荒っぽく掴む。切った指の血を骨の凹凸になすりつけるようにして、
「ここ?」と言った。土方の歯が煙草のフィルターを噛み潰してグシャといった。
「骨いってます?」
 ここと、ここ。レントゲンより正確になぞられる折れた骨が皮膚の下ですくむ。
「今また何本かいった」
「アララ。すみません」ぱっと離された手首をさする土方の横で「死体の方がまだぬくかった」と沖田は言った。土方の命を狙った奴等はみんな死体になった。沖田が死体にした。
「俺はいつなるんだろうなァ」と散った沖田の白い息が雪の塊となって舞いあがった空の遠く、サイレンの音が迫り来る。

2025.02.14/雪