6:
だだっぴろい座敷で三人で飲んでいる。これだけ広い空間で、狭苦しく擦り合う足と肩と皿の意味が分からない。頭蓋の奥では離れればいいと思っている。卓を挟んで対面にいる二人の顔が逆光で、それを直視し続けた眼は影になっていく。総悟。この世で二人しか呼び捨てにしないその名が響くたび、光と影の境目が漣のように揺れていた。やがて酒も時間も尽きた帰り際、もう行くかと出ていく二人のあとを追おうとして最後にふと振り返る。陽の去った影に、紙袋がぽつんと忘れ去られてあった。そこに詰め込まれた大量の紙切れが畳に雪崩れ、その一切れ一切れに昔の自分達が写っているのが見えた。その破り裂かれた写真のどれもが、俺達の故郷だった。それらを紙袋に掻き集めて抱え、先に行った二人を追った。どこにもいない。二人で行ってしまった。俯いたそこには、写真の切れ端にそっくりな水溜りの闇。
7:
地平線の見える草原で、何枚ものシャツと共に物干しのワイヤーに干されている自分。落ちたら死ぬ高さ。風が吹き荒れ、激しくはためく自分。はためくというより大車輪のようにぐるんぐるん回り始めた。回転する視界に、沢山の手が見えた。背丈よりも高い草の中を泳ぐクロールの手だ。後少しでワイヤーから飛ばされそうだが、もう救われなくてもいい。
2025.06.28