割れる運命な卵に、手では間に合わず足を出したら惨事になった。朝から卵を足の甲で割るはめになった銀時の立つ台所は陽に浸かって、黄身を溶いて薄めたみたいになっていた。あ〜……もったいね……と奇跡的に崩れていない黄身を見下ろす銀時の目は皿の上の魚と酷似して、しっぽを振って近づいてきた定春に舐めとられかけた一瞬に跳ねあがる。まだ生きてたかと言われる魚の気分を人生で散々味わってきたような気がしながら定春の舌を追いやって汁椀にその黄身を移す。甲から滑り落ちた黄身が指の間をしたたる際に顔をひくつかせた銀時の、己の足から移った汁椀の中身を嗅いでみての「イケんだろ」という呟きは定春の舌にべろり舐めとられた。舐められた唇をぬぐいつつ、追加で割った卵/砂糖多め/少量の塩/期限切れの牛乳も一緒に掻き混ぜる何事もなかった顔は、鼻歌まで生みだして、起きてきた神楽の寝癖の隙間に眩しい。夏でもないのに妙に黄色い陽射しに透けて、どろり溶けてなくなりそうな銀時の、ぬかるんだ目が神楽を見て、おはようとこぼす。歯磨きも洗顔もまだな状態で、目ヤニついてんぞ、とかいうだらしない会話。卵を掻き混ぜていた菜箸から伝う汁が、油のひいたところへ散ってジュッと鳴く。椀の半分まで垂らして、まんべんなく傾けて伸ばしながら、卵白の膨らみを箸先でいじくった。破裂。布団を干しにいってた新八から、夏でもないのに寝汗ひどすぎませんかアンタと声がかかって、裂いた白身に光のような黄色が入り込んでいった。横から来る新八の視線もコレだという気がして、この破けた穴を埋めるように入り込んでくる黄色を巻き込んで手前に畳んでいくのを、朝の射す中に切り取る。そうして出来た、何度目になるかわからない銀時の卵焼きに伸びてくる箸は、どちらも朝になるたび同じ手に使われて先の方が剥げかかっている。減っていく皿の上の黄色に、溶け切らなかった白が覗いているのを目の下に見ながら銀時はいまだ、ぬめった足の甲が陽に浸かって なまあったかい。

2017.12.13/卵焼き