坂道をのぼっていたときだった。空気はとても澄んでいて空はあいにくの曇り空で少し遠いところで副長がだらだらと歩いていた。坂道をのぼっていたときである。ぶーん、と不快な羽音が耳をかすめた。おもわず頭を低くして おそるおそる目の前の赤い鳥居を俺はくぐった。俺のよこを 小さい蜂が追い越していく。鈴を鳴らして 手を合わす。願いごとが咄嗟に何もないことに気付き、愕然となった。副長の気配が 背中越しに伝わった。今日が続きますように。あわてて唱えた。3回。副長は手を合わすこともなく、ただただ赤い鳥居の真下でぼろぼろになった賽銭箱を見ていた。汗がたらりと俺のうなじを流れていき、流れていき、
赤い鳥居をもう一度くぐった。また不快な羽音が耳の中まで入り込んできたような気がして、俺は頭を低くする。しかし蜂も蝿もあらわれず、なのに不快な音は 残っていた。足を早める。副長の気配は遠ざかる。
後ろを振り返ると、副長、いや土方さんが赤い鳥居にまだ凭れて、煙草を吸っている。
神様は其処にはいないのだとおもった。
2009.06.06/不在の神様