銀時の指がぶらんぶらん揺れている。タラコみたいな腫れ加減からいって骨はアウトだろう、まァ痛いわな、と、つめたいフィルターを噛んでる高杉の歯がかちりと鳴る。バスはまだ来ない。そのあいだオッサンの焚き火に混じって一献。銀時の着ているジャンパーは飛び火でところところ穴があいていた。ぱち、と火の爆ぜる音がする。紙コップを握っていないほうの手。かじかんだ五本の指のその一本一本に熱を通わすようにバラバラに動かしていた銀時は、「来年、厄年だからな俺ら」、そう口にだすと同時、ぴくんと中指を跳ねさす。そのタラコ指はたしかに銀時の意思で動いたのだが、そこに意識までは通っていない。肉体というのはつくづく厄介なものだった。自分の意思で動かせるものもあれば、そうでないものもあって、あとから意思が追いかけてきたり、つよい意思があってもちっとも動いてくれなかったりする。「来年のことを言えば鬼が笑う」、そう返した高杉の片目は、あかあかと燃えていた。ぱち、と火の爆ぜる音がする。
「鬼はテメェだ」
痛みにかすれた銀時の声が、触れて切れそうな夜にとけていった。そのとなりで、高杉は、自らの意思で動かした指先を、バラバラに波打たせてみた。思いのままに動かせるはずのそれらは、こんなにも思いどおりにならない。片目をとなりに向ける。半分の視界で、ぶらんぶらんのタラコ指を見る。三日月のかたちにすっと歪められた高杉の目。物欲しげに銀時の指をたどるその目。火の爆ぜる。バスはまだ来ない。
2015.11.03/バスこないで暮れ