目覚ましをとめ、起き上がった体で、べっとりと濡れた首を血のごとくぬぐった。布団に揺らめく、蝶に見えた陽の光を上からおさえ、立ち上がる。歯磨き洗顔を済ませ、足にまとわりつく定春に躓きかけながら台所に向かう。冷蔵庫を開け、急な依頼で食い損ねた焼き鮭と萎びかけのネギを取った。皮を剥がし骨を除いた鮭をほぐしてから、ネギを小口切りに刻んでいく。その下にちらつく、足の間を行き来する尻尾。卵を溶いてフライパンで軽く炒り、ふわっとした状態で火を止め、炊きたてのごはんに、鮭、ネギ、炒り卵、白ごまを混ぜ込んでいく。指ですくって味見しながら塩を振りかけ、最後にごま油を垂らして、まずは一品。再び冷蔵庫を覗きこみ、取っておいた煮物の残り汁を鍋に入れ、水で薄めて火にかける。そこに「おはようございまーす」と入ってくる声。とっくに階段を上ってくる足音を拾っていた背中に玄関からの光や音が射す。その光を連れてきた新八の眼鏡が台所を覗き、「アレ、銀さんがいる」と言った。「いや、いるだろ」と振り返った逆光の視界を新八が過ぎていく。足の間をするりと抜けていった尻尾もそちらについていった。気づくと沸いていた煮汁に、手の上で賽の目に切った豆腐と、わかめを加え、煮立つ寸前で火をとめる。「神楽ちゃーん、起きて、朝だよ」という声を耳にしながら、味噌を溶き入れた。三個の碗に盛って、ネギの残りを散らす。梅干しの瓶の蓋を回しているところへ、巨大な欠伸で喉を晒す神楽が来て、「アレ、銀ちゃんがいる」と言った。「いや、いるだろ」と振り返った逆光の視界を、神楽が過ぎていく。「いや、いるよな?」と問いかけた先、定春の首が傾ぐ。無駄にでかい声でメシができたことを主張して、揃って食卓につく。湯気の昇る朝食の前、手を合わす二人と一匹の目に、銀時がいる。
2025.06.18/朝飯