雪の降る中、かき氷の入ったグラスを持ってナミはゾロを起こしに行った。冷えきってぎこちなく動く指先をゾロの頬に当てると、ゾロは薄っすらと目を開け、さっびいと白い息を散りばめた。そしてナミの手のなかにあるグラスを見て、なんだそれと言った。かき氷。見りゃわかる。じゃあ聞かないでよ。グラスをゾロに押しつけ、手を擦り合わせる。別にサンジくんの嫌がらせじゃないわよ。ナミの吐き出す息が後方に流れていく。風が北から吹きつけているのだ。あのね、あんたは寝てて知らないだろうけどついさっきまで夏だったの。知らねえよ、とゾロはこぼしてから氷にさしているスプーンを手に取り、少しだけ掬って食べた。さっみい、とゾロは洟をすすっている。鼻の頭が赤くなり、髪やら肩やらに雪が降り積もっていく。スプーンで氷はざくざく削り取られ、かけられたメロンシロップが沈む。夏に戻ればいいのにね、とナミは呟いた。洟をすするゾロの横顔は変わらず、氷を砕いている。そのうちまた夏がくるだろ。どうせ寝てるわよ。うっせー。ゾロの口からちらりと覗いた舌は見事に緑色になっていた。ナミは、赤シロップがたっぷりとかけられたかき氷をルフィが掻き込むように食べていたのを思い出した。
冷てえと舌を出して笑ったルフィをゾロは知らない。彼の寝ている間に、あの夏は終わったのだ。
2010.10.26/あの夏