影山が抱えているとなんでもバレーボールに見えるなとおもった。手土産の、まあるいスイカをすぱんと、まっぷたつに切り落としながら。うわ、まっか、と肩ごしに覗きこんできた国見は特にすきでもないらしく、勝手知ったる冷蔵庫から抜きとった、ひとのエビアンにくちをつけている。
「俺、いいわ」
「なんでだよ食えって」
「影山の手土産っておもうと、なんか重い」
「……まァ、それは」
語尾をすぼめながら切り分けたやつをデカ皿に盛って、部屋へ戻る。
影山はぺたりと網戸にはりついていた。陽射しがきついので、その半身が、ひかりに溶けてしまっている。むかし、これと同じ角度で影山を見ていたことがあった。届かないと、思いこんでいた頃。悔しさを瞳のなかに溜めて歩いた、夕暮れの帰り道。
「スイカ切ったぞ」
「なあ、あの山、なんて山」
そう云って遠くの山を指差す影山。それには返さない、ふたり。つけたテレビのチャンネルをひととおり網羅していたら、うるせえな、とすぐに国見に切られてしまった。じょわじょわ、じょわじょわ、急に意識のなかにはいってくる蝉。急に意識する、この部屋に昔なじみの国見と、影山がいるということ。手を伸ばした先で、同じくスイカを掴もうとしていた指先とぶつかる。
「国見は食わねえのか」
「あー……いや、うん、いただきます」
距離が近くなると、それぞれ、それなりに汗を掻いていることがわかる。
どちらも涼しいかおをしているが、その首すじも、腕も、テカっている。扇風機が、髪の毛を掻き混ぜているが、ひたいにひっついた幾筋かだけは剥がれていかない。
スイカの先っちょを齧ったら、思ったよりずっと甘かった。フォークの先でくろい粒を取りのぞいている国見が、種多いな、とこぼした。くろいのだけじゃなく、しろいのまで取っている。影山のまえだけ、テーブルがべちょべちょだった。あかい汁と吐きだされた黒い種があちこちに飛んで、なんとなく笑ってしまったら、ぶっと口から飛びでた。きったねえな、と身体をひいた国見のその言い方にどことなく滲む、機嫌のよさ。むしゃぼり食っている影山が目線だけをもちあげて、ほいはわはんが、と脈絡なく種を飛ばした。
「え?なんて?」
「及川さんが何」
なんでわかんだ国見
「及川さんが、こないだ、夢に、金田一の子どもが出てきたって言っててツボった」
「はあ?」
「え?妄想?きもちわる」
「てかツボったってなんだ」
「いや、エシャロットがどうとかゆってて、はじめ意味わかんねーとおもって、」
「ぶは」
「え、なんで笑ってんだ国見、なに、エシャロットって何」
ああ、なんか今
あのころ欲していた夏に、ようやく届いた気がするよ。
2015.08.01/あのころ欲していた夏